現在、AI(人工知能)による白黒写真の自動色付け技術が開発され、数々のウェブサービスも登場しています。この技術を簡単に説明すると、AIが写真の局所的な部分や物体、また風景などのシーンを捉え、蓄積された膨大なデータを元に「それが何か」を認識して色を推定し着色するというものです。従来は人間がグラフィックソフト等を使い細かく手彩色していた作業を、瞬時にしてこなしてしまうという驚愕の技術と言えます。
AI(人工知能)による白黒写真の自動色付け技術の優れている点
・白黒写真のカラー化がウェブサービス上で瞬時に可能
・データの蓄積により今後も精度の向上が期待できる
・原則無料(詳細はウェブサービスにより異なる)
色付けの精度に関しては後述しますが、あるユーザーテストによる評価では約90%の結果について「自然だ」との回答を得ているようです。お手持ちの白黒写真を手軽にカラー化したいという方には、無料で試せることもあり、とてもお薦めのサービスといえます。当社でも色再現(カラー化)に関するお問い合わせをいただいた際、例えば「アルバム1冊全てカラー化したい」「カラーになった雰囲気が味わえればいい」といった、より高いクオリティをお求めでない場合、まずはAIの自動色付けを試していただくことをお薦めしています。
現在では、数々のAIによる自動色付けのウェブサービスが存在しています。いずれも個々に特徴があり非常に興味深いところです。ここでは下記の3つのウェブサービスに注目し、AIによる自動色付けを使い「自然」で「正確」なカラー化を目指す方のために、いろいろな条件の異なる原板を使いそれぞれの特徴を比較検証してみたいと思います(所感は全て個人の見解となります)。
1.筑波大学 飯塚助教(前早稲田大学)らによるプロジェクト
http://iizuka.cs.tsukuba.ac.jp/projects/colorization/web/
2.シンガポールの政府関係テクノロジーを活用した試みによる「ColouriseSG」
3.白黒写真を自動的にカラー化して無料で提供「Colorize Images」
※写真の注釈に関して
[原板]出典元のURLを明記。当社顧客提供の場合、都道府県名及びお名前(イニシャル)を表記。
[AIによる自動色付け]「Automatic Image Colorization」 及び URLを明記。
例1 屋外写真
こちらは陸軍大将、乃木希典の100年以上前の写真です。全体的に自然な色付けがされており、特に飯塚助教らのAIによる背景の色付けは秀悦です。しかし、いずれも胸につけられた勲章などは、なんとなく中間色でごまかしているようにも見えます。これはAIが「勲章」という人工物の特定のデータを持っておらず、「それが何か」を認識して色を推定できなかったためと思われます。AIはこのような個々の特定のデータが教師データとして用意されていない限り、それを推定して色付けするのは実質不可能なのです。
例2 肖像写真
高橋是清の肖像写真です。こちらも100年近く前の写真にはなりますが、比較的コントラストがはっきりとした解像感の高い写真です。また修復・補正等の前処理もほぼ必要としない原板となります。
飯塚助教らのAIは全体の「青み」が若干気になりますが、わずかな補正により自然な仕上がりが期待できそうです。また「ColouriseSG」と「Colorize Images」も特に肌の色付けにはリアリティーがあり、色付けの傾向に好みの分かれるところですが、いずれも一部色かぶりのような現象は発生しているものの、精度の高い色付け結果が出ました。ただ上の例と同じく胸の勲章などは、自然な色付けをするよう努力しているように見えますが、改善の必要性を感じるところではないでしょうか。
例3 屋内写真(人工物)
1914年、自宅書斎「漱石山房」での夏目漱石の写真です。まさに人工物に囲まれた、色付けには難しいシチュエーションといえそうです。
飯塚助教らのAIは残念ながらセピアに染まってしまいましたが、注目すべきは「ColouriseSG」と「Colorize Images」で、「ColouriseSG」は色付けの傾向が原板にマッチしたのか、とても自然な感じに仕上がっています。正確であるかどうかは別として、人工環境の自然な色付けが比較的得意である印象を受けました。また肌の色付けもリアルに感じます。「Colorize Images」の鮮やかさも捨てがたく、この2つを組み合わせることで、より精度を高めることができる可能性を感じました。
例4 屋外写真(自然物が多め)
現代的なシャープで解像感の高い、自然物が多めの写真です。「ColouriseSG」に若干苦労の跡が見えますが、飯塚助教らのAIはとても自然な感じに仕上げています。総合的にみて自然物の色付けに関しては、AIはより多くの方が見て納得できる結果を出す可能性が高いように感じます。
例5 原板の褪色・傷・汚れ等が著しい写真
40年以上前のスナップ写真となります。原板はパネルに加工され長年飾られていたため、経年劣化により全体に点状の剥がれや小傷、また非常に細かなひび割れが発生し、セピアに変色してしまっています。このようにコントラストが失われ、はっきりしなくなってしまった状態では、色付けもはっきりとした仕上がりは望めず、いずれも精度の高い結果は出ませんでした。「古く色褪せた昔のカラー写真」といった感じでしょうか? 原板の状態からすれば当然と言えば当然ですが、その中でも「Colorize Images」が比較的良好な色付けをしているように思われます。
原板の前処理(傷の修復加工、コントラストの補正やシャープ化等)の重要性に関しては、次項にて比較検証してみたいと思います。
それぞれ条件の異なる5枚の写真を例に、3つのAIの自動色付け結果を比較検証してみました。いずれも個々に特徴・色付けの傾向があり、やはり現状ベストを選ぶのは困難と言えそうです。その中でも、各AIの特徴や色付けの傾向、長所・短所などを大まかにまとめてみました。
1.筑波大学 飯塚助教(前早稲田大学)らによるプロジェクト
全体的なバランスが良く、落ち着いた色付けをする印象。人工環境より自然環境が得意な傾向。
2.シンガポールの政府関係テクノロジーを活用した試みによる「ColouriseSG」
人工環境の色付けが得意。肌の色も秀悦。自然環境では若干外す場合もある。全体的にクラシカルな雰囲気で色付けする印象。
3.白黒写真を自動的にカラー化して無料で提供「Colorize Images」
鮮やかな色付けをするのが特徴で、特に自然環境が得意。肌も鮮やかな色付けで大きく外すことも無く、無補正が前提であれば総合的に一番お薦めできる。
他、すべてのAIに共通する傾向として、教師データが用意されていない特定の人工物の色を推定するのは実質不可能であり、その場合セピアのような平均的な色を付けてきたり、大きく外してしまったりします。またクリアでシャープな解像感の高い写真には比較的高精度な色付けをしますが、逆にコントラストが低かったり、原板の状態が悪く(褪色・傷・汚れが酷い等)ぼんやりとした印象の写真には、はっきりと色を付けなかったり、セピアにしてしまったりする傾向があります。
以上、あくまでも個人の大まかな見解となります。写真は1枚1枚すべて細かな条件や状態で異なり、それぞれAIの色付け結果も変わってきます。上述した特徴や傾向を参考にしていただき、できれば1つのAIだけではなく、写真ごとに複数のウェブサービスを試し、ご自分の目でベストを選んでいただくことをお薦めします。
次項では、より精度の高い色付けを求める方のために、前処理(原板の傷の修復加工、コントラストの補正やシャープ化等)の重要性や、色付け後の手作業による色補正等、人間の補正作業による精度向上の可能性を検証してみたいと思います。